疑問
鉄は水素よりもイオン化傾向が大きいため、酸を加えると
Fe → Fe2+ + 2e-
2H+ + 2e- → H2
のように反応し、水素を発生する。例えば、希硫酸との反応は以下である。
Fe + H2SO4 → FeSO4 + H2・・・①
なお、鉄のイオンにはFe2+だけでなく、Fe3+もあるため
2Fe +3H2SO4 → Fe2(SO4)3 + 3H2・・・②
のような反応も考えられる。
しかし、鉄と希硫酸の反応は②ではなく①である。なぜ①なのか?
理由
その理由は、鉄がイオンになる際、Fe3+ではなく圧倒的にFe2+になりやすいからである。
イオンのなりやすさについては、高校ではイオン化傾向で判断するが、大学では酸化還元電位という定量的な尺度が存在する。
鉄の酸化還元電位を調べると以下である。
Fe2+ + 2e-
Fe -0.44 V・・・③
Fe3+ + 3e-
Fe +0.77 V・・・④
この酸化還元電位を大雑把(雑)に説明すると、電位の値がマイナスであれば左方向に、プラスであれば右方向に反応が進む。
③を見てみると、酸化還元電位の値はマイナスなので左方向、つまりFeはFe2+になりやすいことがわかる。一方、④を見ると、酸化還元電位の値はプラスなので、FeがFe3+になる反応は起きないことがわかる。
以上より、鉄はFe3+ではなくFe2+になるので、鉄と希硫酸の反応は②ではなく①となる。
同様に、鉄と希塩酸の反応も以下のようにFe2+が生じる。
Fe + 2HCl → FeCl2 + H2
なお、生成したFe2+は、O2存在下では容易に酸化されてFe3+になることには留意せよ。